無常 ~執着を手放す~ (2018-, 制作中 )
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生きていくとは、何と深い精神的な苦しみを伴うものなのだろうか。その苦しみは、他人への羨望や嫉妬、大切な人との別れ、裏切りや復讐、根拠のない中傷など、感情的な執着や人間関係のもつれから生まれる。
苦しみから解放されたいと願ったとき、人は気づく。救いへの道は、執着しているものを手放し、前に進むことしかないのだと。
ギリシャの哲学者エピクテトスはこう語っている。「人生において価値ある唯一の目標は自由である。そしてそれは、自分の手に負えないものを手放すことで得られる」。この言葉は、苦しみの本質を突いている。私たちは、どうにもならないものに執着することで、苦しみを生み出しているのだ。手放すことは弱さではなく、むしろ最初の一歩となる強さなのだ。
やがて時が、癒しをもたらしてくれるだろう。歴史は語る。成功や失敗、人間関係、そして生命でさえ、常に変わり続け、永遠ではないと。これこそが、日本人の美意識の根底にある「無常感」の本質である。
無常感とは、執着を捨て、変化を受け入れて歩むための静かな覚悟である。それによって心の平穏がもたらされ、私たちはようやく、移ろう瞬間ごとの美しさに気づき、味わうことができるのだ。
* 作品 muj01, muj07, muj11 はロシア国立プーシキン美術館に永久収蔵されました。

蓮の枯葉 生きていることが辛いと思うことはないだろうか。 私は他人と自分とを比べて苦しんでいた。 枯れた蓮はまるで自分を見るようだ。

石仏群 この石仏には一千年ほど前の人々の思いが詰まっている。 いまそれぞれの思いを私達は知る事は出来ないが、 決して心穏やかなものではなかったはずだ。

古城 この城は約400年前の日本の最高権力者が建てた日本一の城だった。 権力は決して続かない。今は松が一本あるのみである。

加茂の水 京都では権力争いにより多くの無念の血が流れた。 鴨川の水は人の争いも欲望も悲しみもすべて洗い流していく。

奇跡の一本松(岩手) 2011年に発生した東日本大震災の海岸で津波から生き残った松。 今を生きる人はこの松に亡くなった人々への思いをはせる。

雲と水と人々 雲や水や人々はひとときも同じではない。 人との出会いは一期一会であり、雲や川の流れのように次々と変化していく。

石仏(十一面観音) 人のあらゆる願いを叶えるというこの石の仏は どれほど多くの人の哀しみを受け止めてきたのだろう。

蝉 蝉は十年あまりを地面の中で過ごし、一生の最後の夏に地上に出て死ぬ。 しかし暗黒の地下での長い生活や短い命を悩み苦しんでいるわけではない。 自分に与えられた本分を精いっぱい果たしているのだ。私にも私の本分があるはずだ。

花火 花火は湧き上がるように華々しく空に開き、はかなく消える。 一瞬であるがゆえになおさら美しい。

曼珠沙華 曼珠沙華は悲しい思い出に終止符を打ち、 自分の心と向き合わせて人の心を癒すと言われる。

老桜 老いた桜は今年も華々しく咲き誇り、そして散る。 来年もまた美しい花を見せてくれるに違いない。

蓮の花 一度枯れた蓮も、次の年には泥の中から気高く美しい花を咲かせる。 人は時の変化に身を委ねて 、過去のことも将来のことも忘れて、 いま目の前にあるこの美しい瞬間を楽しめばよいのだ。